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カスタードアップルはなぜ呼び名が多い?番荔枝・釈迦頭の歴史

カスタードアップルの歴史と物語|名前の由来・アジア伝来・テト文化

カスタードアップル、シュガーアップル、バンレイシ、釈迦頭。ベトナムでは na や mãng cầu ta と呼ばれるこの果実には、土地の言葉や文化を映したさまざまな名前があります。

熱帯アメリカを故郷とするバンレイシ(Annona squamosa)は、海を渡ってアジアに広まり、各地で新しい呼び名と意味を得てきました。中国や台湾で見た目に重ねられたイメージ、ベトナムのテトの食卓に込められた願いを手がかりに、その歴史と物語をたどります。

同じ果実にも、土地の言語や文化に応じた複数の呼び名があります。
同じ果実にも、土地の言語や文化に応じた複数の呼び名があります。
目次

故郷はメキシコからコロンビアにかけて

キュー王立植物園の Plants of the World Online は、Annona squamosa の自生域をメキシコからコロンビアにかけてとしています。カリブ海、アジア、アフリカなどにも広く分布していますが、これらの多くは導入地域です。

属名 Annona は、スペイン語 anón を経て、イスパニョーラ島のタイノ語に由来するとする語源辞典があります。植物の学名にも、アメリカ大陸の言葉の痕跡が残っています。

バンレイシは熱帯アメリカを自生域とし、海上交易を通じて各地へ広がりました。個別の伝来経路は確定できません。
バンレイシは熱帯アメリカを自生域とし、海上交易を通じて各地へ広がりました。個別の伝来経路は確定できません。

大航海時代にアジアへ広がった

バンレイシは、大航海時代に発達した海上交易の中でアメリカ大陸からアジアへ広がったと考えられています。太平洋やインド洋を結ぶ交易は、各地の果物や作物が新しい土地へ渡る機会になりました。

ただし、バンレイシが通った港や、各地域へ伝わった順序を一本の航路として確定することはできません。原産地から世界へ広がった大きな流れと、個別の伝来経路を分けて捉える必要があります。

「カスタードアップル」は地域で指す果物が変わる

英語の「custard apple」は、学名のように世界共通で1種だけを指す名前ではありません。Annona reticulata の一般名として使われるほか、地域によっては A. squamosa やアテモヤなどを指します。

つまり、バンレイシが別種の名前を一方的に「借りた」というより、バンレイシ属の甘くやわらかな果実に、似た英語名が重なって使われてきたと見る方が実態に近いでしょう。名前の曖昧さは誤りというより、一般名が地域文化の中で育つことを示しています。

詳しい種の違いは、姉妹記事のカスタードアップル図鑑で整理しています。

中国と日本の「番荔枝」

中国語の「番荔枝」は、字面では「外国から来たライチ」を思わせる名前です。バンレイシとライチは、それぞれバンレイシ科とムクロジ科に属し、植物学上は遠い関係にあります。それでも、見慣れた果物になぞらえて新しい果物を呼ぶ方法は、世界各地の一般名に見られます。

日本語の「バンレイシ」は「番荔枝」を音読みした名称です。果物だけでなく、その呼び名も漢字文化圏を通じて伝わってきました。

「番荔枝」は字面では外国から来たライチを思わせ、日本語ではバンレイシと音読みされます。
「番荔枝」は字面では外国から来たライチを思わせ、日本語ではバンレイシと音読みされます。

台湾で「釋迦」になった理由

台湾ではバンレイシを「釋迦」と呼びます。台湾農業部は、果実の形が釈迦牟尼の頭部に似ていることが由来だと紹介しています。

台湾名「釋迦」は、果実の形が釈迦牟尼の頭部に似ていることに由来します。
台湾名「釋迦」は、果実の形が釈迦牟尼の頭部に似ていることに由来します。

台湾農業部の農業知識サイトは、バンレイシが約400年前のオランダ統治期に導入されたと紹介しています。伝来を語る際は、この公的機関の説明に基づく歴史的な概要として捉えます。

その後、台湾南部や東部へ栽培が広がり、台東は主要産地になりました。高雄や屏東でも栽培されています。

台湾農業部は、バンレイシが約400年前にオランダ人によって導入されたと説明しています。
台湾農業部は、バンレイシが約400年前にオランダ人によって導入されたと説明しています。

インドで使われる呼び名 sitaphal

インドではバンレイシが sitaphal などと呼ばれます。英語圏の sugar apple やベトナムの na と同じように、暮らしの中で使われる地域の呼び名です。

地域や言語によって呼び名は異なります。植物を正確に識別したいときは、学名 Annona squamosa を併せて確認すると役立ちます。

sitaphal はインドで使われる呼び名の一つです。現地名と植物の学名を区別します。
sitaphal はインドで使われる呼び名の一つです。現地名と植物の学名を区別します。

ベトナムでは na と mãng cầu ta

ベトナム北部では主に na、南部では mãng cầu ta と呼ばれます。ta には「わたしたちの」「在来の」といった意味があり、mãng cầu xiêm(サワーソップ)と区別するときに使われます。

一つの国の中で呼び名が分かれることも、この果実の名前の面白さです。ただし、mãng cầu だけではバンレイシとサワーソップのどちらを指すか文脈で変わるため、買い物や料理名では実物も確認しましょう。

ベトナムでは地域により na と mãng cầu ta という呼び名が使われます。
ベトナムでは地域により na と mãng cầu ta という呼び名が使われます。

テトの五果盛りと「cầu vừa đủ xài」

ベトナム南部では、テト(旧正月)の祭壇に果物を供える五果盛り mâm ngũ quả が見られます。代表的な組み合わせの一つが、mãng cầu、ココナッツ dừa、パパイヤ đu đủ、マンゴー xoài です。

これらの音を重ねると、cầu vừa đủ xài(使うのにちょうど足りますように)という願いの言葉になります。イチジク sung を加え、豊かさを願う cầu sung vừa đủ xài とする例もあります。

南部の五果盛りには、果物の名前を新年の願いに重ねる習慣があります。
南部の五果盛りには、果物の名前を新年の願いに重ねる習慣があります。
mãng cầu の cầu は「願う」、dừa は vừa、đu đủ は đủ、xoài は xài に音を重ねます。
mãng cầu の cầu は「願う」、dừa は vừa、đu đủ は đủ、xoài は xài に音を重ねます。

五果盛りの mãng cầu は、必ずしもバンレイシだけを指しません。サワーソップを使う例もあり、選ぶ果物は家庭や地域によって異なります。形や品種が違っても、果物名の音を新年の願いに重ねる点は共通しています。

果物の名前の音を重ね、暮らしに必要なものが足りるよう願います。
果物の名前の音を重ね、暮らしに必要なものが足りるよう願います。

幾つもの名前が語るもの

アメリカ大陸に由来する呼び名、英語圏の sugar apple や custard apple、中国語圏の番荔枝や釋迦、ベトナムの na や mãng cầu ta。バンレイシの名前には、各地でこの果物に出会った人々の見方が残っています。

その一つひとつは、見た目、味、伝来、言葉遊びと結びついています。次にこの果物を見かけたら、果肉の甘さとともに、土地ごとに重なった名前や文化も楽しんでみてください。

名称は一本の道ではなく、各地の言語と文化の中で並行して育ちました。
名称は一本の道ではなく、各地の言語と文化の中で並行して育ちました。
バンレイシは土地ごとに異なる名前と意味を増やしてきた果実です。
バンレイシは土地ごとに異なる名前と意味を増やしてきた果実です。

カスタードアップルの名前と歴史についてよくある質問

カスタードアップルという名前の由来は何ですか?

英語圏で、甘くやわらかな果肉をカスタードにたとえた一般名です。ただし地域によって複数のバンレイシ属植物を指します。

バンレイシと釈迦頭は同じ果物ですか?

この記事で扱う Annona squamosa は日本語でバンレイシと呼ばれ、台湾では果実の形から「釋迦」と呼ばれます。

カスタードアップルはどこからアジアへ伝わりましたか?

自生域はメキシコからコロンビアにかけてです。大航海時代の海上交易を通じてアジアへ広がったと考えられますが、個別の伝播経路は断定できません。

ベトナムのテトでは何に使われますか?

南部の五果盛りでは、mãng cầu などの果物名の音を新年の願いに重ねます。家庭や地域により使う果物は異なります。

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参考資料

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この記事を書いた人

ベトナム・ハノイ在住。現地の市場やスーパーで実際に果物を購入し、味・旬・選び方・食べ方を紹介しています。日本ではあまり知られていない南国フルーツの魅力を、現地での体験をもとに分かりやすくお伝えします。

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